すでに、2週間前のことになりますが、12月15日、横浜コミュニティデザイン・ラボ主催で、「情報デザイン入門」の著者で現在北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット 特任教員の渡辺保史さんをお招きして、勉強会『多様で複雑な活動や人々の社会的つながり方の拡大とソーシャルメディアの展開』が行われました。
この記事は、そのときの、勉強会の議論をまとめたものです。
この勉強会は、2010年3月13日に予定されている「ソーシャルメディアの現在」シンポジウムに向けた1回目プレセッションとして企画されました。
この勉強会関連のデータは以下のように現在でも参照可能になっています。
・勉強会案内
http://mediken.blogspot.com/2009/12/blog-post.html
・ustream
http://bit.ly/8rbjxd
(17分あたりから音声クリアになります)
・twitterハッシュタグ
#medhken
・渡辺保史(わたなべ・やすし)さんtwitterアカウント
http://twitter.com/nextdesign
・この勉強会のログ
http://portside-yokohama.jp/headlines/mediken091215.html
この記事では、とりあえず、主に、この勉強会の前半の渡辺さんがプレゼンされたことを主に紹介します。後半については、別枠で書く予定です。
渡辺さんも指摘されていた通り、twitter研究会、web学会に象徴されるように、現在では、twitterハッシュタグとustreamで研究会、シンポジウムなどを実況することが一つの標準になりつつあります。同様のことは、研究会、シンポジウムに限らず、様々なイベント、経験、活動、生活で生じています。
このように、twitterとustreamは、場、経験、イベントなどを同期的に共有可能にする新しいアーキテクチャと言うことが可能です。しかし、こうしたことは、今始まったことではないとも言えると思います。
例えば、2007年、すでに日本の若手のギークたちはこうしたことを行っていました。また、渡辺さんも2001年当時、ブロードバンドを通していくつかの地点を遠隔的につなぎ、同期的に体験を共有するインパクのイベントにファシリテータとして参加されていたとのことです。
あるいは、用いているツールは違いますが、2ちゃんねるの実況スレ、ニコニコ動画も、また、同様に、同期的に経験やイベント、コンテンツを共有するために使われてきました。こうしたことは、濱野智史さんも「アーキテクチャの生態系」で指摘されていることです。
また、web学会と同じような試みは、以前から国際学会でも行われていたことです。
こうしたことを見るなら、twitter研究会やweb学会のようなことは、以前から、まさに野火のように、様々な場所でローカルに行われていたことは明らかでしょう。そして、twitter研究会やweb学会は、そうしたローカルな活動が、つながって大きなものなったことを可視的にした象徴的なイベントだったと位置づけることが可能だと思います。
いずれにせよ、個々のローカルな活動やコミュニティで、それぞれ独立に用いられていたときと比較して、ソーシャルメディアは、新しい段階を迎えていることは明らかだと思います。こうした「ソーシャルメディアの現在」は、多くの人々の観点、例えば、渡辺さんの「情報デザイン」や私が関与して来た「状況論」、「状況的学習論」の観点に、これまで行ってきたことの捉え直しを迫っていると思います。
12月15日の「ソーシャルメディアの現在」の勉強会は、こうした背景を受けて行われました。
シンポジウムをtwitterハッシュタグとustreamで実況するweb学会などの試みに関連して、渡辺さんが指摘されていたことは、以下の3点だと思います。
1. 情報デザインという観点で見るなら、twitterやustreamといったツールは、まだまだ荒削りであり、洗練する余地がある。
2. こうした場をアレンジするコーディネータ、ファシリテータ、あるいは、情報デザイナーといった人々の役割が大きい。
3. すでにデフォルトであるtwitterやustreamによるイベントなどの実況のスピード感が大切だが、もう一方で、拙速にもならず、議論、作る、循環させることも必要だ。
こうした渡辺さんのご指摘は、webやモバイルなどのソーシャルメディアのデザインだけではなく、空間のデザイン、活動のアレンジ、テーマ、コンテンツの共有のためのリソースなどをどのようにアレンジするかといったことが「情報デザイン」の課題になるということを含んでいると思います。
こうしたことは、twitterとその他のサイトや実空間を統合的にどのようにアレンジすべきか、時間的経験という点では幅がある様々なサイトをどのように繋げて行くか、同期的経験とより長期的な活動や人々のつながりをどうデザインして行くかという形で言いかえることも可能でしょう。
一方で、こうした「情報デザイン」のヒントは、すでに、様々なtwitterをはじめとするソーシャルメディアの使われ方の中にすでに存在しているかも知れないと考えることもできます。
例えば、実は、twitterにしても、単体として、機能しているわけではなく、twitter以外の様々なネットやリアルのサイトと繋がる中で、機能しているのであり、そこにtwitterの「情報デザイン」の秘密があるようにも思えます。
twitterは、確かに、同期性を可能にするアーキテクチャですが、仮に、twitterだけ参照可能なとき、そこで何が語られているか理解不可能だと思います。実際、私は、twitterに馴染みのない人から、何度も、twitterのどこが面白いのかわからないと言われたことがあります。
逆に、twitterの語りが理解可能であったり、その中で発言可能であるのは、twitter以外の多層的な文脈やリソースがあるからだと思います。twitter以外の多層的な文脈とは、例えば、発言している人の日常生活を知っているとか、活動を共有しているとか、関心あるコンテンツを共有しているといったことです。あるいは、twitter内でのRTとか、引用されているURLの記事や著作なども、その多層的な文脈の一部を形成しています。そして、twitterの発言の履歴も、文脈になります。
このようなことを考えると、アーキテクチャとしてのtwitterは、そのシンプルな作りの中に、タイムラインを提供すると同時に、twitter以外の様々なリアルやネットにおける活動、人々、コンテンツへの一筋の糸、つまりスレッドを作り出しやすい仕組みを持っていると考えることができます。あるいは、twitterとtwitter以外の様々なリアルやネットへのスレッドをより可視的するという再デザインをめざすことも可能だと思います。
そして、こうしたことは、twitterまわりのデザインだけではなく、ソーシャルメディア全体の設計、デザインの課題でもあり、さらに、ソーシャルメディアに限定されない場や時間のデザイン、アレンジの課題だと思います。
渡辺さんが指摘されていた通り、ソーシャルメディアが大きく展開しつつある現在、「情報デザイン」を捉え直すいいチャンスであると思います。同様のことは、「状況論」、「状況的学習論」における実践共同体や学習環境のデザイン、参加の仕組みを作るといったことについても言えると思います。状況論の現代的な捉え直しについては、また、近日中に書きたいと思います。